上杉聰『天皇制と部落差別 権力と穢れ』(解放出版社、2008年)

天皇制と部落差別 権力と穢れ

天皇制と部落差別 権力と穢れ

 旧「三一新書」の同名の書の新版。一応論文集だが語り口が平易で、この20年余りの部落史研究の変動をわかりやすく提示している。要点を私なりにまとめると、1)被差別部落の起源は、かつて言われたような近世幕藩体制による被差別身分の設定にあるのではなく、中世初頭まで遡ること、2)部落差別の特色は、奴隷支配のような「社会内」における支配・所有に基づく差別ではなく、「社会外」への排除による差別であること、3)部落差別は時代によって異なる諸相を示してはいるが、決して時代間で断絶してはおらず、常に天皇制と密接に関係していること、というところである。
 特に第2の点は部落に限らず、あらゆる差別を考える上で重要な示唆を含んでいる。つまり、ある集団や共同体の内部で「上」と「下」の差別がある状態と、集団や共同体から排除され「内」と「外」の差別がある状態の相違である。「穢れ」観のようなものは後者にしか存在しない。
 本書を読むと部落史研究は依然として「発展途上」にあって、基本的な事実でも確定していないことが少なくないことがわかる。天皇制の連続性をことさら強調している点や、神国思想と仏教・儒教の関係について誤認がある点など疑問も多いが、被差別部落問題を考える上でいろいろ勉強になった。