岩井志麻子『悦びの流刑地』(集英社、2003年)

悦びの流刑地

悦びの流刑地

 なぜか久々に岩井志麻子の小説が読みたいなと思い、図書館で目に付いたのを借りた。
 感想を一言で述べれば「淫媚」。「姉」と連夜禁断の愛欲にふける盲目の少年という設定からして妖しさが炸裂している。体温や匂いすら感じられる文章力はさすが。
 個人的に思ったのは、この作品は「抱かれる」性の視点で愛欲を描写するという姿勢が一貫しているということ。ただし「抱く」性=男、「抱かれる」性=女というわけではない。そして「抱く」者はまるで「男根」とか「女陰」という名前でもおかしくない記号的キャラクターである。
 ある意味、この作品は「抱く」性に制約されていた者が、どうすれば「抱かれる」側に転じることができるかということを追求しているような気がする。特に「抱く」立場を当然だと思っている男こそ、この作品を読むべきなのだろう。