塩見鮮一郎『貧民の帝都』(文藝春秋、2008年)

貧民の帝都 (文春新書)

貧民の帝都 (文春新書)

 東京養育院の変遷を軸とした日本近代救貧史。近世社会の救貧システムと近代国家の福祉政策との関係性、都市の貧困の実態、救貧する側の「まなざし」などを歴史的に跡付けている。
 本書を一読してわかったのは、現在の貧困の特徴はすでに幕末・維新期には出そろっていて、根本的には今に至るまで貧困を生みだす社会構造は何ら変わっていないということである。維新期には七分積金のような旧来の救貧資金が資本蓄積に転用されたという話は、まさに現代において社会保障費を削減しては巨大資本への優遇策に転じている状況を彷彿とさせる。明治の一時期、貧者への授産のために日雇会社が作られるもピンハネが横行して失敗に終わったという事例も、まるで歴史を繰り返しているようだ。貧者を養育院に収容しては「生きながらの地獄」(賀川豊彦の東京養育院評)のような生活しか与えず、いわば「救済」という名の「隔離」だったという可能性も指摘されているが、これも現在の行政によるホームレス「自立」対策と類似している。
 賤称廃止令後もしばらくは弾左衛門や車善七の組織系統が貧困政策に関与していること、資本家の慈善に依存することの矛盾と限界、十五年戦争期以降はそれすらも希薄となり、貧困者に対する社会的排除はむしろ強化されていること、近代初頭から一貫して存在する「自己責任」論など、いろいろと考えさせる好著だった。