労使関係の非対称性

 ごく単純な労働でないかぎり、起こりうるすべてを契約に書きつくすことはできない。その中身が日々決まっていくのが労働契約の特徴だ。そもそも労働者と使用者の立場は対等ではない。こうした現実においては、労使の個別契約ですべてを決めるのではなく、問題解決のための集団的、社会的枠組みが必要だ。
 規制緩和論者には、「その会社が嫌なら辞めて他に転職する」というエグジッド(出口)があれば労使関係は対等だ、という考え方が強い。だが、労働力という商品は特殊であり、同じ職場で長く働くことによってその性能が高まっていく。ある会社に継続して勤め、能力が高まった労働者は、いったんエグジッドしてしまうと、まったく同じ価格で売ることは非常に困難だ。最終的に転職するにせよ、現在の職場で一定のボイス(意見)を発することが認められるべきだろう。(濱口桂一郎「労働者と使用者は決して対等ではない」『週刊東洋経済』2008/02/16)

 労働法制を解体し、労働条件を個別の労働契約に委ねる方向性への危惧。ただし濱口は正規雇用の解雇規制緩和を支持していることに注意。