戦争を体験していないから現代の若者はダメだという言説

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンマスのライナー・キュッヒルの発言。

 当時の団員は個性豊かな人が多かったと思います。その個性がぶっつかりながらも、1つの見事な流れを作っておりました。現在は団員の気質が変わって来ました。コンピューター世代とでも言うのでしょうか、この人たちは例えばの話、戦争を知りません。私がコンサートマスターになったころの団員は戦争や戦後の辛酸をなめていました。ですから人間的な深みを持っていたのです。もちろん、1950年生まれの私は戦争を直接経験していませんが、両親がその経験をしていますから、何らかの形で戦争の経験を身近に知ることができました。今の若い団員たちはそうした経験はありません。社会の荒波にももまれておりません。彼れは音楽的味わいを十分に経験していないかもしれません。(ライナー・キュッヒル、『音楽の友』2008年4月号、p.p.84-85)

 戦争体験からの距離が「人間的な深み」を決めるという。典型的な「今の若いやつは・・・」という言説だが、戦争体験を特権化・聖域化すると、戦争を体験していない世代はその特権化・聖域化された体験を待望する。こうした言説は「戦争の語り」において非常に危険である。