2008年2月8日衆議院予算委員会における志位和夫の質疑1

衆議院予算委員会会議録 第169回 第5号 平成20年2月8日」より

(前略)
○田野瀬委員長代理 これにて岡田君、渡部君、長妻君、原口君、武正君、笹木君の質疑は終了いたしました。
 次に、志位和夫君。

○志位委員 日本共産党を代表して、福田総理に質問いたします。
 派遣労働の問題を中心に総理の見解をただしたいと思います。
 この間、構造改革の名で進められた政策のもとで国民の中に深刻な貧困と格差が広がり、多くの国民が、暮らしの底が抜けてしまったような不安と危機のもとに置かれております。
 貧困と格差が拡大した原因はさまざまですが、その根源には人間らしい雇用の破壊があります。中でも、派遣労働を合法化し相次ぐ規制緩和を繰り返してきたことは、雇用の不安定化、労働条件の劣悪化の中核をなす大問題だと考えます。
 派遣労働者は三百二十一万人に急増し、うち登録型派遣、派遣会社に登録して仕事があるときのみ雇用されるという、極めて不安定な状態に置かれている労働者が二百三十四万人に達しています。派遣最大手のグッドウィルフルキャストが違法行為を繰り返し、事業停止処分に追い込まれるという事態も起こりました。
 余りに劣悪な現状を打開するために、今、幅広い労働運動、市民運動、立場の違いを超えて連帯を強め、労働者派遣法の改正を強く求めております。
 ところが、政府は今国会での派遣法改正を見送るという姿勢ですが、そんな先送りの姿勢でいいんでしょうか。私は、派遣法改正は緊急の大問題だと考えておりますが、まず総理の見解を端的にお述べください。総理、総理の見解です。

○舛添国務大臣 今委員がおっしゃったように、派遣労働をめぐるさまざまな問題が起きてきているということについては十分に認識をしております。ただ、一方で、働き方の、価値観の多様化というか、フリーターとかいうようなそういう働き方もやりたいという方もおられることも、これまた確かです。
 しかし、今大事なのは、この派遣法を初め基本的な労働法令をきちんと遵守してもらわないと困るということであります。それから、やはり正規労働者になってもらうということで、三十五万人の常用雇用化、フリーター常用雇用化プラン等を推進しておりますし、それから、やはり若者が職業能力を開発する、若者だけじゃなくて年長フリーターにもこれをやっていただくということで、ジョブカード制度などを入れまして、鋭意この問題に取り組んでおります。

○志位委員 私は派遣法改正が喫緊の課題だということの認識をただしたんですが、お答えがありませんでした。
 具体的に聞いていきたいと思います。
 まず、不安定雇用である派遣労働の中でも最も不安定、無権利のもとに置かれ、ワーキングプア、働く貧困層が拡大する要因ともなっている日雇い派遣の問題について、総理の基本認識を伺います。
 この間、私は、全労連首都圏青年ユニオン派遣ユニオンなど、派遣労働者の労働条件の改善のために闘っている団体、個人から実態をお聞きしました。日雇い派遣について、次のような実態にあることが訴えられました。
 まず、究極とも言える不安定性です。派遣会社に登録しますと、携帯電話にメールで集合時間と仕事先が送られてくる。日雇い派遣の契約期間は一日だけです。次の日に仕事が得られるかどうかはわからない。あすの仕事だけを心配する日々が続いています、半年後、一年後などは見通しはつきません、人生をどうするか、結婚をどうするかなど、およそ考えられません、これが多くの若者から今寄せられている声であります。
 また、異常な低賃金も問題です。労働時間は八時間でも、集合から解散までの拘束時間が長い。十二時間拘束というケースも少なくありません。多くは重労働にもかかわらず、一日の手取り額は六千円から七千円前後。政府の調査では、専ら日雇い派遣のみで生活している場合、一カ月で働けるのは平均十八日、月収は十三万円から十五万円です。仕事がとれなかったり体調を崩して仕事を休めば、たちまち収入が途絶えて、アパート代すら払えず、いわゆるネットカフェ難民に落ち込むというぎりぎりの生活を強いられている。
 それともう一点、危険が伴うということも訴えられました。何の経験もない労働を何の教育も受けずに日がわりでさせられるもとで、労働災害が多発しております。倉庫の荷さばきの仕事中、一トンもの荷崩れに巻き込まれて大けがを負ったケースもあります。派遣が禁止されている建設の解体作業現場で働かされ、前が見えなくなるほどの粉じん、アスベストが舞う中で作業をしました、正社員は防じん用のマスクをしていたが、派遣労働者はコンビニで簡単なマスクを買うことを勧められただけでした、中にはタオルを巻いただけで作業をしている人もいました、ぞっとするような事態が告発されています。
 総理に伺います。この日雇い派遣にこういう問題点があるという認識はあるでしょうか。端的にお答えください。今度は総理。

    〔田野瀬委員長代理退席、委員長着席〕

福田内閣総理大臣 日雇い派遣も、それから大きく労働者派遣制度というものには、それがいいという意見もあるし、それはまずいという意見、両方あるんですね。いろいろなニーズにこたえて、こういう制度が存在したということでございます。労働者の側から考えましても一定のニーズがあるという反面、不安定な働き方である、そういう見方がありまして、これを見直すべきであるという意見もあるのは承知しております。
 そのために、まずは、日雇い派遣の適正化などのためのガイドラインを早急に策定するとともに、登録型派遣のあり方など制度の根幹にかかわる問題について、今月の十四日に厚生労働省に設置される研究会で、働く人を大切にする視点に立って検討を進める、こういう考え方をしておりますので、いずれにしても、問題があるという認識は持っておるわけであります。

○志位委員 不安定な働かせ方で問題があるということを言われましたけれども、労働者のニーズもあるということを言われました。
 しかし、専ら日雇い派遣で生活せざるを得ない人々は、ほとんどが望んでその仕事についているわけじゃありません。正社員の就職ができない、リストラに遭った、当座の生活費すらない、そういうさまざまな理由から日雇い派遣を選ばざるを得ないんですよ。生きるすべが他になく、やむなくこの仕事についている人々を、ニーズがあるというふうには呼べないんです。研究会ということも言われましたけれども、政治がどういう責任を果たすかが私は問われていると思います。
 私は、この問題はさらに重大な問題があると思います。日雇い派遣の問題をずっとお聞きしていて最も深刻なのは、これが人間を文字どおり消耗品として使い捨てる、究極の非人間的な労働だということであります。
 次のような訴えが寄せられました。直接雇用の場合は、たとえアルバイトでも、あす来てもらうからある程度長もちするように使うが、日雇い派遣は、あす来なくていいから目いっぱいへとへとになるまで使う。人間として気遣われることもない。
 また、こういう訴えもありました。倉庫作業と言われて行ったら、冷凍倉庫だった。軍手しか持っていかなかったので、半日で両手とも凍傷になった。それでも、日がわりで翌日には別の人が来るから、改善がされない。
 さらに、こういう訴えもありました。どんな簡単な労働でも、同じ仕事が続けられれば、スキルアップ、技術が向上する喜びがあるのに、それが全く得られない。幾ら働いても手に何もつかない。こんな非人間的な労働はない。
 これは、もちろん違法行為をなくすことは大事です。しかし、日雇いという働かせ方自体が、日雇い派遣という働かせ方自体が、人間を物のように使い捨てにし、使い切りにし、人間性を否定する労働だ、こういう認識を持って対応すべきだと思うんですが、総理、いかがでしょうか。これは総理の見解を伺いたい。

○舛添国務大臣 今委員が御指摘のように、使い捨てというような形で労働者を扱ってはいけないと思います。労働者派遣制度につきましても、その二十五条で「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を考慮する」というようなことで、さまざまな制限を課し、例えば派遣の記録を、だれを、何人、どういうふうに仕事をさせたか、これの提出義務を課したり、さまざまな指導を行っているところでありますし、先ほど申し上げましたように、二月十四日に厚生労働省に検討会を立ち上げますけれども、そこでこの制度の根幹にかかわる問題をやはりきちんと議論しないといけない。そういう思いで取り組んでまいりたいと思います。