東条英機と「灰色の国民」

 敗戦間際の東条英機の手記が話題になっているようだが、個人的に忘れ難い東条の言葉がある。

 国民の大多数は灰色である。一部少数の者がとかく批判的言動を弄するものである。そこで国民を率ひてゆく者としては、此の大多数の灰色の国民をしつかり掴んでぐんぐん引きずつてゆくことが大切である。大多数の灰色は指導者が白と云へば又右と言へばその通りに付いてくる。自然に白になる様に放つておけば百年河清を待つものである。 (伊藤隆ほか編『東條内閣総理大臣機密記録』東京大学出版会、1990年。吉田裕『アジア・太平洋戦争岩波書店、2007年、p.p.80−81より重引)

 1943年の発言。そういう民衆観なら、「簡単に手を挙ぐるに至るが如き国政指導者及国民の無気魂なりとは、夢想だもせざりし」なんて憤慨するのはおかしいと思うのだが・・・。